合成呉須の原料「コバルト」の産地と、迫りくる供給リスク
有田焼の鮮やかな青色(コバルトブルー)。その源である「合成呉須」は、明治初期に深海平左衛門らが、ドイツの化学者ワグネル博士の指導のもと開発しました。
しかし現在、その主原料である「コバルト」は、世界中で争奪戦が起きている超・希少金属(レアメタル)です。
この記事では、合成呉須の命であるコバルトの産地と、地政学的なリスクについて解説します。
【結論】コバルトは「青い金」になりつつある
- コバルトはレアメタルであり、単体での採掘が難しい。
- 世界の埋蔵量の約50%、生産量の約70%が「コンゴ民主共和国」1国に集中している。
- EV(電気自動車)需要の急増により、陶芸用コバルトの確保が年々難しくなっている。
1. レアメタル「コバルト」とは何か?
コバルト(Cobalt)は、原子番号27の元素です。
名前の由来はドイツ語の「Kobold(地の妖精)」ですが、現代産業においては「産業のビタミン」とも呼ばれる重要資源です。
なぜレアメタルなのか?
レアメタル(希少金属)とは、「地球上に存在する量が少ない」または「技術的・経済的に取り出すのが難しい」金属のことです。
コバルトは単体で鉱床を作ることは稀で、主に以下の鉱物に含まれています。
主なコバルト鉱石
- 輝コバルト鉱(cobaltite, CoAsS):コバルトの硫化物及び砒化物
- ヘテロゲナイト(heterogenite, CoO(OH)):含水酸化コバルト
- 硫コバルト鉱(linnaeite, CoCo2S4):コバルト及びニッケルの硫化物
- 砒コバルト鉱(smaltite, (Co,Ni)As3-X):砒化コバルト
これらは、銅、銅-ニッケル、ニッケルなどを採掘する際の「副産物」として生産されます。
主産物(銅など)の価格や需要に左右されるため、安定供給が難しい要因の一つとなっています。
陶芸以外の用途(EVシフトの影響)
コバルトは陶芸(呉須)以外にも、以下の用途で使われています。
- リチウムイオン電池(正極材):スマホ、PC、そして電気自動車(EV)
- 特殊鋼・超合金:ジェットエンジン、切削工具
- 磁石:強力な永久磁石(サマコバ磁石)
特にEVシフトにより、バッテリー需要が爆発的に増加。
陶芸用のコバルトは、この巨大産業との競争に晒されています。
2. 産地の偏在:コンゴ民主共和国への依存
コバルトの最大の問題点は、産地が極端に偏っていることです。
JOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)のデータを見てみましょう。
世界の埋蔵量(2021年)
グラフの通り、世界の埋蔵量の約半分(48%)はアフリカ中部のコンゴ民主共和国にあります。
次いでオーストラリア(20%)、キューバ(7%)と続きます。
世界の鉱石生産量(2021年)
生産量に至っては、世界全体の約70%をコンゴ1国が占めています。
特定の国への依存度が高いため、現地の政情不安や輸出規制が起きると、世界中のコバルト供給がストップするリスク(カントリーリスク)を抱えています。
まとめ:貴重な「青」を、大切に使う
私たちが普段使っている合成呉須は、地球の裏側にある鉱山から、長い旅をして届いた貴重な資源です。
今後、コバルトの入手はますます困難になる可能性があります。
深海商店は、明治時代から続くコバルト調達のルートと、長年の備蓄・管理ノウハウを活かし、この貴重な「有田の青」を守り続けています。
一滴も無駄にできない、地球からの贈り物。それが私たちの呉須です。
出典:JOGMEC 鉱物資源マテリアルフロー2021
参考:経済産業省 レアメタル選定基準
