【陶芸の謎】なぜ「見本」と同じ色にならないの? 釉薬の色が変わる6つの原因と対策
「買った釉薬の色が、見本と全然違う……」
陶芸をやっていると、そんな経験をすることは一度や二度ではありません。
「不良品かも?」と疑う前に、少しだけ窯の中で起きている化学反応に目を向けてみましょう。
実は、釉薬の色は「生き物」のように変化します。
同じ釉薬を使っても、陶土、温度、厚み、冷め方……たった一つの条件が変わるだけで、全く別の表情を見せるのです。
【プロの現場から】
私たち深海商店のプロでさえ、厳密な色合わせをするには20回〜30回の焼成テストを繰り返します。それほど繊細な世界なのです。
この記事では、あなたの作品が見本と違ってしまう「6つの主な原因」を、図解的にわかりやすく解説します。
1. 「陶土」が違うと、色は変わる

釉薬は、ただ陶土の上に「乗っている」わけではありません。高温で溶けた釉薬は、陶土の表面と化学反応を起こしながら一体化します。
- 赤土・陶器土:鉄分や不純物が多く、釉薬と反応して色が暗く渋くなりやすい。
- 白土・磁器土:鉄分が少なく、釉薬本来の鮮やかな色がそのまま出やすい。
「見本は白土だったのに、赤土に掛けたら色が濁った」というのは、まさにこの陶土の成分が釉薬と反応した結果です。
2. 「冷める時間」が違うと、結晶の大きさが変わる

窯の火を止めた後、「どれくらいのスピードで冷ますか(徐冷)」によって、釉薬の中に生成される「結晶の大きさ」が劇的に変化します。
これは小学校の理科で習った「塩の再結晶」と同じ原理です。
結晶が育つ時間がない。
→ 結晶が小さいまま固まる。
結晶がじっくり育つ。
→ 結晶が大きく成長する。
特に結晶釉の場合、「見本のような大きな結晶模様が出なかった」という原因の多くは、冷却スピードが早すぎたこと(結晶が育つ時間が足りなかったこと)にあります。
3. 「濃度(濃さ)」が違うと、発色が変わる

釉薬の「ボーメ度(濃度)」も重要です。水で薄めすぎても、濃すぎてもいけません。
- 適正範囲:一般的にはボーメ40°〜55°程度。
- 薄すぎると:色が出ず、貧弱な仕上がりになります。
- 濃すぎると:焼成中に「縮れ(ちぢれ)」や「ひび割れ(割れ)」を起こしやすくなります。
4. 「生地の厚み」が違うと、釉薬の厚みも変わる
意外と見落としがちなのが、器(素地)そのものの厚みです。
素焼きの器は、スポンジのように水分を吸い込みます。
- 厚い器(厚いスポンジ):水をたくさん吸えるため、釉薬もたっぷりと厚く掛かります。
- 薄い器(薄いスポンジ):すぐに水が飽和してしまうため、釉薬は薄くしか掛かりません。
たとえ同じ秒数だけ釉薬に浸しても、器の厚みが違えば、付着する釉薬の量(=色の濃さ)は変わるのです。
5. 「焼成温度」が違うと、溶け具合が変わる
シンプルに言えば、「よく焼くと、よく溶ける」ということです。
焼成温度は、釉薬がガラス化する度合いに直結します。
- 温度が低い:釉薬が溶けきらず、マット調になったり、ザラザラしたりします。
- 温度が高い:釉薬がトロトロによく溶け、光沢が出たり、流れやすくなります。
また、「±30℃」違うだけでも、この溶け具合は大きく変わります。
【深海商店の焼成基準】
弊社では、以下の温度でテスト焼成を行っています。
この温度を目安にしていただくと、見本に近い結果が得やすくなります。
- 還元焼成:1280℃
- 酸化焼成:1230℃
6. 「窯の場所」によって、温度ムラがある
「同じ窯で焼いたのに、上段と下段で色が違う」
これは、窯の中の温度分布によるものです。
- 上の方:熱気は上に溜まるため、一般的に温度が高くなりやすく、釉薬がよく溶けます。
- 下の方:温度が上がりにくく、溶け不足になることがあります。
電気窯でも、ヒーター線の位置によってムラが生じます。大事な作品は、窯の「癖」を知った上で配置を考える必要があります。
まとめ:違いを楽しむ、それが陶芸の醍醐味
「見本と違う」ことは、必ずしも失敗ではありません。
それは、あなたの窯、あなたの土、あなたの掛け方が生み出した、世界に一つだけの色です。
とはいえ、狙った色を出すためには「テスト(試作)」が不可欠です。
まずは小さなテストピースで、自分の環境ではどんな色になるのかを試してみてください。
そのデータの積み重ねが、あなたを「色の魔術師」へと変えてくれるはずです。

