2026-02-13

はじめに:窯を開けた瞬間の「ドキッ」をなくすために

陶芸教室で、織部(おりべ)や辰砂(しんしゃ)といった銅を含む釉薬を使ったとき、こんな経験はありませんか?

「隣の人の真っ白な器が、ほんのり赤色の斑点になっている……」
「先生から『銅を使うときは置く場所に気をつけて』と言われたけれど、理由がよくわからない」

実はこれ、あなたのミスではありません。高温の窯の中で起きている「銅」特有の現象なのです。

今回は、教室の釉薬だけでは物足りなくなり、自分だけの色を探し求めているあなたへ。少し扱いが難しいけれど、だからこそ魅力的な「銅」の振る舞いについて、深海商店がわかりやすく解説します。

 

1. なぜ、触れていないのに色が移るの? 「揮発(きはつ)」のミステリー

陶芸の世界では、銅は鮮やかな緑や赤を生み出す人気の金属です。しかし、焼成中に「揮発(きはつ)」しやすいという、少しおてんばな性質を持っています。

窯の中で起きているドラマ

窯の温度が1000℃を超える高温になると、釉薬に含まれる銅成分の一部がガス(気体)となって、作品からふわりと飛び出します。

このガス化した銅が、近くにある白磁や白い釉薬の作品に降り注ぐと、どうなるでしょうか?

  1. 付着:銅の成分が、隣の作品の表面に吸着します。
  2. 発色:還元焼成(酸素を奪う焼き方)の場合、付着した微量な銅が化学反応を起こし、赤色(辰砂色)を発色させます。

これは「コロイド発色」と呼ばれる現象の一つで、銅ナノ粒子が特定の波長の光を吸収することで、私たちの目には美しい赤色として映るのです。

つまり、あなたの情熱的な赤色が、意図せず隣の作品に飛び火して、ほんのりと「頬を染めさせてしまった」ようなもの。これを防ぐためには、銅の性質を正しく理解する必要があります。

 

2. 知っておきたい「棚板」への影響とマナー

銅の揮発は、空間だけでなく「道具」にも影響を与えます。特に注意したいのが、作品を載せる「棚板(たないた)」です。

見えない記憶が残る

棚板は一見真っ白に見えますが、揮発した銅は、この棚板にも付着しています。

もし、銅が付着した棚板を使って、次回「銅を含まない作品」を焼いたらどうなるでしょう?

再び高温になった窯の中で、棚板に眠っていた銅が目を覚まし(再揮発し)、新しい作品に移ってしまうことがあります。
「銅を使っていないのに、なぜか銅の発色が所々見られる……」
その原因は、過去の焼成の記憶にあることも少なくありません。

教室や共同の窯を使う場合、これはマナーに関わる大切なポイントです。

 

3. トラブルを避け、自由に表現するための「解決策」

「迷惑をかけるのが怖いから、銅を使うのはやめようかな……」
そう思う必要はありません。正しい知識と対策があれば、あなたはもっと自由に表現を楽しめます。

① 「サヤ(匣鉢)」を使う――自分だけの個室

プロも行う最も確実な方法は、「サヤ(匣鉢)もしくはボシ」と呼ばれる蓋付きの容器に入れて焼くことです。
こうすれば、銅が揮発してもサヤの中に留まるため、隣の作品や棚板を汚す心配がありません。まるで、アロマを焚くときに個室のドアを閉めるような配慮です。

② 深海商店の「成分明記」による安心

そして何より大切なのは、「自分が使っている釉薬に何が入っているか」を知ることです。

市販の釉薬の中には、成分がよくわからないものもあります。知らずに銅入りの釉薬を使い、トラブルになってしまう……そんな悲しい事故を防ぐために。

深海商店では、銅を含有している釉薬には必ず「銅入り」の文言を明記しております。

  • 「この釉薬、銅が入っているからサヤを使おう」
  • 「先生に『銅入りなので配置を相談したい』と伝えよう」

成分がわかっていれば、あなたは自信を持って対策ができ、周囲への配慮もできる「一歩進んだ陶芸家」になれます。

 

まとめ:知識は、あなたの優しさになる

陶芸は化学反応の芸術です。「なぜそうなるのか」を知るだけで、不安は「自信」に変わり、失敗は「配慮」へと変わります。

深海商店は、あなたが安心して作陶できるよう、銅入りかどうかを明確にした高品質な絵具や釉薬をお届けしています。

あなたの創造と配慮を、深海商店はサポートいたします。


よくある質問:銅釉薬の取り扱いについて

Q. 陶芸で隣の作品に色が移るのはなぜですか?
A. 窯の中で銅などの金属成分が高温によりガス化(揮発)し、隣の作品に付着・反応するためです。特に銅は揮発しやすく、白磁などを一部赤く変色させる現象を引き起こします。

Q. 銅釉薬の揮発を防ぐにはどうすればいいですか?
A. 「サヤ(匣鉢)」と呼ばれる蓋付きの容器に入れて焼成するのが最も確実です。また、銅専用の棚板や窯を決めることも有効です。

 

「知って使う」から、陶芸はもっと自由になる。

揮発対策の「サヤ(匣鉢)」や「アルミナ」はお近くの陶芸道具店でご準備ください。
そして、最も大切な「中身(釉薬)」は、成分を正直に明記している深海商店にお任せください。

私たちは、お客様が安心して使えるよう、銅を含有する製品には明確にオンラインストア商品名に表示を行っています。あなたの表現を、安全に、そして確実に手に入れてください。

深海商店の「銅入り」製品一覧を見る

この記事の執筆者

深海宗佑

佐賀県有田町出身。深海家13 代目。株式会社深海商店後継者。先祖は有田焼始祖の一人である百婆仙。熊本大学理学部理学科卒業後、東京の大手経営コンサルティング会社にて勤務。2021年8月に有田町にUターンし、有田焼及び肥前窯業圏の再興を使命に東奔西走する。